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2023年
辿る
古代より伝承や逸話が残されており、偉人や墨客に愛されている道後温泉地区を歩き、過去と現在が共存している印象を持った久野氏が、町の地下を流れる温泉の湯の通り道をマッピングした作品「route」という象徴的な作品ほか、椿、湯玉、送湯管など、土地の物語を彩る特徴的な7つのモチーフを素材に、ロウを原型に整形したきめ細かな意匠の金属パーツで制作。歴史の積み重ねを感じる重厚感、物事を持続させ発展させていく生命力や希望といった思いを託した。会場となるホテルが所有する地域の伝統工芸品に自身の作品そのものを寄生させ動き出しそうな感覚を加え、双方に瑞々しさを与える。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023route
道後は、地図を片手に散策するのにちょうどいいサイズ感で、訪れた人々に対し時の流れについて感じ、考える場を提供してくれる。道後温泉本館を中心としたさまざまな文化施設、宿泊施設がある道後地区の道や土地、建造物の形に着目し、普段は直接見ることができない温泉の湯の流れ(配管)を可視化させた。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023transform-drop-
道後のシンボルマークである湯玉は、温泉のしずくや、沸騰時に湧き上がる温泉の泡、お湯が沸き出るときの波紋などをモチーフにしたものであると言われており、道後温泉本館の瓦や釘隠し、街灯、商店街の柱や看板など、いたるところで見つけることができる。 自由に表現され変化していく湯玉の姿を表現。
transform-pipe-
道後の湯は、現在利用可能な18本の源泉から汲み上げられる。20度から55度の温度の源泉と源泉をブレンドすることで42度程度の適温にしており無加温・無加水の「源泉かけ流し」を実現し、1日2000トンもの温泉が供給されている。 湯を各施設に運ぶのに必要不可欠な、でも目に触れる機会のあまりない送湯管をイメージし、伸長していく様を表現。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023連綿とつづく
長い年月の間に、移築や増改築を繰り返し、主に4つの建物が組み合わさった非常に複雑な形態をした建築物で、その時代の技法を取り入れつつ道後温泉の発展に対応し、道後温泉のシンボルとして存在している。 道後温泉本館の屋根に使用されている、いぶし銀の独特の色と艶が特長の菊間瓦の上に、保存修理工事が進み今までの姿を継承しつつもアップグレードされていく建物の様子を表現。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023connect
夏目漱石の小説「坊っちゃん」の中で、「マッチ箱のような汽車」として登場し、主人公の坊っちゃんが乗ったことから坊っちゃん列車と呼ばれるようになった。伊予鉄道(現・伊予鉄グループ)開業から間もない頃の明治21年から67年間にわたり活躍した蒸気機関車がモデルとなっており、松山市民の足として活躍し、地域の経済・産業・文化の向上に貢献した。昭和11年刊行の伊予鉄道電気五十年譜に載っていた蒸気機関車の資料とともに、ディーゼル機関車で復元された坊っちゃん列車をモチーフに、時代の変遷、昔を懐かしみつつ時代に合わせ改良されていく様を表現。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023枯れない花
松山市の市花である椿は、古くから松山の人々に親しまれ椿を題材にした俳句や逸話が多数あり、道後公園の湯釜薬師の近くに熟田津という品種名のヤブツバキが群生している。砥部町で生まれた伝統工芸品である砥部焼の花瓶と共に、いつでも楽しめる枯れない椿を制作。
©Ayako Kuno / DOGO ART 2023water ripples
白鷺が岩の間から噴き出る温泉に怪我をしていた脛を毎日当てていたところ、その怪我がみるみる回復し、遠くへ飛んで行った。その姿を見た人々が白鷺に習って温泉に入ると、怪我や病気がたちまち治ったという伝説がある。道後温泉を発見した白鷺は、道後温泉本館内の至る所に建物の装飾としてちりばめられている。 水を感じさせる砥部焼の上に、白鷺が水面で動いた時に現れる水の波紋のイメージを表現。
紡ぐ
道後の宝厳寺に生まれた時宗の開祖である一遍上人の代表的な文言、南無阿弥陀仏の特徴的な筆跡や、正岡子規が夏目漱石とともに道後へ吟行した際に宝厳寺で読んだ俳句の文字を形として扱う。夏目漱石も小説『坊っちゃん』の中で宝厳寺を登場させている。文字の存在はいつの時代にも立ち返ることができ情景を想像させてくれる。街のいたるところに言葉や文字が溢れ、思いを巡らすことができる道後の土地柄を、文字自体と書籍を組み合わせて表現。
久野 彩子クノアヤコ2008年、武蔵野美術大学 工芸工業デザイン科金工専攻 卒業。2010年に東京芸術大学大学院美術研究科工芸専攻(鋳金)修士課程 修了。ロストワックス鋳造技法を用いて作品を制作。ロストワックスとは、ロウで作った精密なカタチを金属に置き換える手法で、硬質で重厚な金属の質感と共に、細部にまで技巧を凝らした表現も併せ持っている。手間を厭わない職人気質を有する一方で、都市をそのミクロな作品の中に封じ込めるコンセプトは工芸領域を超えて、新しい可能性を開いている。
2017年・2022年には金沢・世界工芸コンペティション(金沢21 世紀美術館/石川)にて入選。
コロナ禍以降は、町に出ることが減り、より自身を取り巻く環境を見つめ直し、自然などをも表現するようになったという。